DATE: CATEGORY:スポンサー広告
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
DATE: CATEGORY:SS
月明かりの下、金糸が惑う。
静寂を割らずに響く、明澄な発声。夜の冷えた空気にしなやかに伸び行く、穏やかな旋律。
詩を音律に乗せて。広がる木々と共にダンスを踊る。
歌声が、響いた。

歌が嫌い、と歌姫は詠った。


歌姫の褥 断片の一

カタルマリーナの朝は遅い。
当然だろう、夜、こんなにも遅くまで起きていたら朝寝坊も日課になろうというもの。いかに神の一欠片とは言えど、その身に紀性など宿ってはいないのだから。万能の絶対性など六つ下の妹か二つ上の姉にでも任せておくがいいというものであり、自分のような怠け者は日がな一日ごろごろして昼頃に置きだすのが似合いというものなのだ。うん今そう決めた。
森には静寂が満ちている。近頃から根城にし始めた場所だが、それなりにいい所だった。身のほど知らずの愚かな人間達は見当たらないし―――少なくとも、今までは―――動物も少ない。
誰もいない場所が良かった。人がいなければ良し、動物もいなければなお良し。
そこまで望むのは流石に無茶だとは分かっているが、それでも
彼女は誰かが傍に来るのさえ嫌だった。
何故なら他人は、彼女の唯一の楽しみを邪魔するのだから。
何番目かの月が空高くに昇っている。あれは精月だったか太月だったか。博識な姉ならば空の月や星の位置を見て方位や日時まで正確に割り出すのだろうが、自分にはそんな真似は出来ない。カタルマリーナは姉妹の中でも非力な方だし、大した芸ができる訳でもない。他の皆は魔術や剣術、学術と色々できるというのに、彼女にできるのは「歌う」事、それのみだ。
そう。たったのそれだけ。
唾棄すべき、下らない三文芸のそれ以下だ。
それでも、と彼女は独り言つ。
喉から、単音を送り出す。中天に紅い月。今宵は満月、音が良く通る夜。
歌おう、と何の気なしに思った。理由など無い。己が好悪、選択と意思など頓着しない。ただあるがまま、衝動以前の識域下にて歌えと叫ぶ誰かが居る。それで充分だ。
ラ、と震い渡る音流は木々を滑り葉に伝播していく。針葉樹林は音の通りがいい。そんなことをエクリエッテが言っていたけれど、本当だった。
森が、合唱した。
詩など無い、ただの単音。抑揚を変え、強弱を付け、波の如くに空気に打ち寄せ大地に帰る静かで壮大な世界の重奏。
それが、彼女の今宵の歌だった。
聴衆は居ない。ここに同席を許されるのは、伴奏者たる木々達と、彼らが手にする葉と枝のみ。
かさかさと風が吹き、そよそよと草がそよぎ、がさりと慌しい物音がして、夜の演奏会は閑々と―――
がさりと慌しい物音・・・?
気配を感じて振り向いた途端、そこにいた誰かは消え去った。
後にはただ、静寂が残るのみ。
けれど、確かに感じた。
今までそこに、誰かがいた。
そんなこと、あるはずがないというのに。
背後の木に近寄り、茂る草むらを見ればそこには落ちた葉と誰かがいた形跡が。
間違いなく、其処には誰かがいて、彼女の歌を聞いたのだ。
生きたまま、彼女の歌を。

起床してすぐ、昨夜の事を思い出して頭が痛くなった。
元々低血圧気味ではあるのだが、今日はいつも以上に憂鬱な気分だった。
自分の歌を誰かに聞かれるというのはカタルマリーナにとっては忌避すべきことだし、あってはならない事である筈だった。
それなのに、昨夜の失態ときたら。
充分に周囲を警戒していたら、いやそもそもなんであんなところに人が、などと止め処無く疑問が溢れてくるのだが、それ以前にアレは現実だったのか、もしかしたら夢じゃないのかしらと自分の記憶に自身が無くなって来てとりあえず思考を放棄、顔を洗う事にした。
寝床にしている小屋は妹の一人に無理を言って建ててもらったものだ。気にするなと本人は笑っていたが、実際かなり迷惑をかけているので少し気が咎めたものだ。
木造りの簡素な家だが、内装に気を遣ってあってとても住み心地が良い。
なにより、川辺まで程近いのが素晴らしい。
折角だから、洗濯も一緒にしてしまおう。溜まっていた洗濯物を籠に突っ込んでタオルと洗剤と洗濯板、ついでに櫛と一緒に持っていく。
朝の清涼な空気がひんやりとしてきもちいい。といってももうすぐ昼なのだが。
小川に着くと、冷たい水を手で掬って顔に浸す。
水面に映った自分のを見ながら、肩にかかる金髪を櫛で撫で付けていく。枝毛こそないが、最近変な方向にばかり跳ねる困った髪である。こういう時、どこぞの黒髪の妹が妬ましい。
質素な木綿の衣類を水に浸して、灰汁を水に溶かして波模様の刻まれた板に擦りつける。
力をいれて布を擦っていると、自然、苦笑が漏れた。
―――多分、他の皆は原始的だと笑うんだろうな。
仮にも魔女と謳われた自分達が、川で地道な洗濯である。
多分他の姉妹ならば指先一つで綺麗にしてしまうのだろう。最も、彼女は魔術について何一つ知らないのだけれど。
そう。彼女はそんなものに縁遠い生活を送っていた。
身を守る術。趣味や道楽、学術探求。
そんな一切に関わらず、カタルマリーナに魔術の才能は無い。
言葉で紡ぐ真理も、文字で騙る韻律も、血脈で流す証も。
カタルマリーナはそれで充分だった。他の姉妹にあるものを自分は持っていない。それもまた個性だろうと、そう思う。
基本的に彼女たちは似ていない姉妹なのだ。そのくらいの決定的な差異が無ければ九姉などと名乗れない。
彼女は遅めの朝食は昼食を兼ねることにしているのだが、今日の献立は何にしようかと考えているその矢先、遥か彼方で風を切って何かが放たれる音が聞こえた。
洗濯物を川辺に放り出して飛び退る。直後、その場に矢が突き立った。
殺意、あるいは悪意。感じなれたそれらを受け流して、カタルマリーナはその先を見た。
向こう岸の木々に隠れて、弓を持った男が一人。恐らくはまだいるだろう、その証拠に右後方と真後ろの木の上から木がしなる音がした。
聴覚を研ぎ澄ます。自分の中で、何よりも優れた機関。その性能の一端を存分に引き出して行く。
弓を引き分ける音。拉ぐ力の均衡が停止して、力が凝縮される。矢の向きが、彼女を捉える。
ひゅん、と音がして、二射は性格にカタルマリーナの背を強襲した。いい腕だ、と彼女は思った。
軽く斜め前に踏み出して、すこし顔を傾けてやる。頬のすぐ真横と左脇腹を掠めて矢が通過していった。
事も無げに射撃を回避した事に動揺しているのだろう。気配ですぐ分かる。襲撃者は全部で三人なのか、それ以上の連撃は襲ってこない。
全く以って興醒めだった。この程度の些事で、朝の良い気分を台無しにしないで欲しい。
鬱陶しい。心底から怒りが込み上げる。
ようやく平和で穏やかな日々を手に入れたと思ったというのに、何処にいってもこれだった。
魔女狩り、研究者、英雄、魔術師、神官戦士に異なる神々。
私たちという姉妹は、この世界に居る限りこうなのだろうか。
自分だけではないというのが唯一の慰めであり、救いようの無い事実の証明だった。
嘆息する。ああ、なんて不幸な私だろう。毎回毎回こうやって怠惰に遅々と腹を据える。覚悟しなくば生きられない。
だから、カタルマリーナは愚かしい人間共に向けて言い放った。
「今から三十秒あげる。それだけの時間の間に逃げおおせられたら見逃してあげるわ」
いーち、にーい、と数え始めた瞬間、矢が飛んできた。
事も無げにかわして、そのまま数え続ける。
数秒ごとに放たれる矢は虚しく空を裂き、愚かしくも秒数が重ねられて行く。
馬鹿な人間、と心の中で呟いて、苛立ちと呆れをない混ぜにして数えを終わらせる。
「・・・うはち、にじゅうきゅう、さんじゅう。はい、お終い」
業を煮やした男達が、短剣を抜いて斬りかかって来る。
けれど、もう遅い。
カタルマリーナは、金糸の歌姫は、その薄赤い唇を開いて、細く白い喉を震わせて―――


【歌い】始めた。



―――続



つーわけで、キュトスの姉妹が3、【歌姫】カタルマリーナ。
デビルナインが主役って、これOKなんだろか。いいよね別に、誰かが既にやってたりはしないよね?
ヘリステラとかアーザノエルとか、サンズみたいな厄介そうなのは関わらないのがベターだと思うんだ。なんか、単純そうな能力が書きやすそうだし。
だからカタルマリーナ。いいじゃんカタルマリーナ。クレアノーズくらい好きだよ。公式でキャラ定まってないけどさ。
あと何話くらいで収まるかな。二三話で終わらせたいところ。
あと他の姉妹を一人くらい出したい。誰にしよう。
そんなわけで、ひとまず続く。
スポンサーサイト
コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)



copyright © あお空。  all rights reserved.Powered by FC2ブログ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。