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歌が好きだった。
誰かに聞いてもらいたくて、色んな所で歌った。
聞いてくれた人たちは、皆勝手に死んでしまった。
私は歌っただけなのに。
皆がそうするように。楽しげに、朗らかに、笑いあうその響きが、羨ましかっただけなのに。

どうして皆は、私の歌を嫌いになるの?
歌姫の褥 断片の三


歌は嫌いだ。
自分の魔女としての能力。音を操り、統べる能力。
他者を傷付け、弄び、嬲る事しか出来ない殺戮の力。
歌うたびに自分が憎くなっていく。
歌わざるを得なくなるたびに、自分がこの力を必要としている事を実感してしまう。この忌むべき力を。
いらない。
こんな力はいらない。
けれど、これが無ければ私は今日まで生きてこれなかったろう。
なんて矛盾だろうか。背反している理想と現実。言語化すると陳腐なフレーズだ。摩擦も軋轢も、だれもが乗り越えるものだというのに。
安っぽい悩みなのだろう、とカタルマリーナは思う。
この程度の折り合い、他の姉妹達は疾うにつけている。
業を背負って生きること。
他者を殺して生き延びる事。
不死たる我等が眷属の務め、其に生無くば奪いて得よ。
けれど。
カタルマリーナは歌いたかった。
ただ、歌を聴いて欲しかった。
狂うのではなく笑って欲しい。
絶叫ではなく共に歌って欲しい。
願い。
きっと、誰にだって出来るであろう、当たり前の事。
誰かが歌い、耳を伝い、人の心を振るわせる。
それくらいの夢が、叶ってもいいではないだろうか?
幾度嘆いただろう。幾晩泣き明かしただろう。
人里を離れ、隠れ忍んで逃げ暮らす。密林の奥、深い山中、荒地の果て。
見つかる度に逃げ回り、それでも飽きずに歌いつづける。
幾ら憎むもうと、どんなに嘆こうと、歌うことだけは止めようとしなかった。

息を吸い込む。
その詩は嘆願。その歌声は絶叫で、その韻律は慟哭で。
何時の間にか苦行と化し、それでもなお止める事が出来ない未練の挽歌。
何も残らぬ、死人の歌。
だってその歌は、死人しか聴くことが出来ないのだから。
リズムを激しく、その心情を引き裂くように。
その想いを吐き出すように。
世界への呪詛を、紡ぎ出す。
この口腔は人を呪い、
この舌峰は世界を呪い、
この咽喉は歌を呪う。
死ねと歌い、嘲り嗤う。
生きとし生ける者共よ。どうか全て死に絶えて。
そうすれば、死者だらけのその世界で、私は歌を聞いてもらえる。
だから、それが、私の、願い、

「嘘吐いちゃ駄目ダヨ」

音が、止まった。
熱中した余り背後に気を付けていなかった。後方からの声は、そこに誰かがいるという事を示している。
誰が?
ありえない。歌っている最中に聞こえた、ということは。
「ソンナ事、思っていないんデショ?」
歌を聴いたにも関わらず、正気を保っている、ということ・・・?
「歌いツヅけるのは、歌が好きだから」
振り向いた。信じられない、信じたくない。
そんな都合のいい現実を、認めたくない理性が悲鳴を上げる。
「誰かに聞いて欲しいカラ、皆と仲良くしたいから、ダヨネ?」
そこに。

灰色の髪と、真っ白な服を着た。

「ハジメマシテ」

彼女の運命が、そこにいた。

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