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「冗談にしちゃ笑えないし、本気だったら許せない」
別れようと告げた時の彼女の反応が、それだった。
むしろ僕が冗談だと笑いたい。目の前の彼女は切れ長の目と意志の強そうな長い眉をきりりと吊り上げて、僕の顔を睨みつけていた。
けれど、いくら彼女が凄んだとて、僕の意思は変わらない。変えられはしない。
「本気だよ」
はっきりと告げてやると、彼女は、パニエリモ=ハイクローズは怯んだような表情をした。
少しだけ、少しだけ心が痛んだが、そんなことには頓着しない。僕は、してはいけないのだ。
「もう一度、言うよ。
いいかパニエリモ。僕は君とはもう付き合えない。君は今まで必死になって隠してきたようだけれど、人間の目は容易に誤魔化されない。 
僕はね、魔女なんかとは付き合えないんだよ」
言い終えるや否や、僕の頬に衝撃が走った。





*【剥離】

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親友の恋人が死んだので、僕の恋人は親友と付き合うことになった。

それは何時になく暖かい冬、一月の最中だというのに雪のひとつも降らない、風情も素っ気も無い季節のことだった。
僕たち四人は高校時代からの友人で、同じ大学に進学し同じサークルに入り、何の綻びも無い大学生活を送っていた。
一年は瞬く間に経過し、試験の準備やらなにやらで忙しい僕たちを、とある悲劇が襲った。
別段珍しくも無い、ありふれた事故だった。
その日は雪こそ降らなかったものの、低い気温は路面を凍結させていた。 そこをスピードを出し過ぎた車がカーブを切り損ね、運悪く飛び出した親友の恋人に直撃した。
即死だったそうだ。
葬式には僕たち三人も出席した。
親友は式の間中ずっと声を出さなかった。始終無表情で、涙の一つも見せず、死んだかのように虚ろな表情で座っていた。
僕は何と声をかけて良いか分からず、自分の恋人が親友を慰めるのを見ていることしか出来なかった。
勿論僕も僕の恋人も、親友の恋人の唐突な死にはショックを受けていたが、親友のそれとは質が違っていた。
それからの親友は人が変わったように無気力になり、僕たちがいくら話し掛けても気の無いふうに相槌を打つだけで、常に陰鬱な雰囲気を纏わせる男になった。
僕は恋人と相談した。どうしたら彼は自分の恋人の死から立ち直れるのだろうかと。
僕は時間の経過を待つのが一番ではないかと言った。今はそっとしておこうとも。
恋人はこんな時こそ自分達が力になるべきだと主張した。そんなことを言って、あなたは彼のことがどうでもいいのか、彼との友情はそんなものだったのか、とも。
意見の食い違いから言い争いになり、僕たちは気まずいまま暫く顔を合わせなくなった。
その頃には僕は自分の言葉がどれだけ彼女を失望させたか、どれだけ無思慮な発言であったかを自覚していたが、彼女に謝る機会は中々巡ってこなかった。
親友とも連絡がつかない日が続いていた。親友に対し、何か力になれるだろうかと考えることもあったが、今ごろ彼女は親友を励ましているのだろうかと思うと、柄にも無い嫉妬心が身をもたげ、また僕の行動を妨げるのだった。
そうこうしているうちに二月になり、僕には願っても無い好機が訪れた。
二月十四日、聖バレンタインデー。
喧嘩中とはいえ、恐らく彼女は僕の為にチョコレートを贈ってくれるだろう。
きっと彼女のほうでも仲直りをするチャンスを窺っているはずだし、これを期に二人協力して親友を支えていこうと、そう思った。
僕は彼女の自宅に直接電話をかけた。彼女は一人暮らしの僕や親友と違って家族と同居しているので、電話すると恥ずかしがっているのか、妙に機嫌が悪くなる。
だから滅多にしないことなのだけれど、携帯は通話メール共に着信拒否されていたので仕方が無かったのだ。
電話には彼女の母親が出たが、自宅に彼女はいなかった。
行き先を尋ねると、親友の家だという。
礼も言わずに僕は電話を切り、即座に親友の家へ向かった。
何故かは分からないが、とてつもなく嫌な予感がしたのだ。
果たして、その予感は当たっていた。
だが、その時には何もかもが手遅れだった。
僕が親友の部屋を訪れると、やはりというか、彼女と親友がいた。
二人はなんでも無い風を装っていたが、部屋の中の生暖かいような空気と、寝台の必要以上に乱れたシーツが示す事柄は明白だった。
テーブルの上には、丁寧に解かれた包装と、手作りらしき沢山のチョコレートがあった。
何故だろうか、僕は直前にしていたであろうの二人の行為よりも、そのチョコレートの存在の方が許せなかった。
僕は激昂し、二人を詰った。どうしてこんなことになったのか説明を求めた。
親友は弱りきって頭を下げ続けたが、恋人は(その時にはもう、親友の恋人になっていたのだが)強気に僕を見返すと、逆に怒鳴り散らしてきた。
僕には自分達を責める権利は無い、責められるべきはそちらの方だと言い張った。
彼女が言うには、僕は親友が助けを必要としている時に手を差し伸べる事も出来ない薄情な男で、彼女はそんな僕にひどく失望したらしい。
彼女はそうして親友を慰め、支えようとした。
勿論最初は友人として、仲間として彼を励ましていたが、彼は心からすべてを委ねられる相手を必要としていた。
彼女はそれに応えた。親友には自分が必要だと感じていたし、また親友は自分でなければ救えないと思ったのだという。
結果、二人は付き合うことになった。
実に自然な流れだった。
二人が付き合うまでのプロセスを懇切丁寧に説明され、一通りの罵倒を受けた。呆然とそれを聞くしかなかった僕は、ヒステリックな弾劾の声を背に、部屋を飛び出した。
その後、大学構内で二人の顔を見ることは偶にあったが、サークルも辞め、人間関係を極力断っていた僕と二人との間に接触は無かった。
それから何年も経ったある日、僕の下に二人が結婚したという知らせが書かれた簡素なハガキが来た。即座に破り捨て、僕はそのことを忘れた。忘れるように努めた。
僕は生涯彼らのその後を知る事は無かったが、それ以来僕は一度たりとも女の子からチョコレートを貰う事は無かった。
義理ですら手に入らなかった。
何故なら、僕自身が、差し出されたそのチョコレートを拒絶してしまうからだ。
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ミエス・リヴァの話をしよう。
白き神。芸術の神。色彩の神。
新しき神たる美の司。
相対的な美を誇る、あらゆる者の中で最も美しい女神。


此処は灰色の楼閣。ヘレゼクシュを遥かに越えて、東の国の更なる最果て。二面の魔女が支配する灰色の庭園である。
魔女、カルル・アララ・ア。
彼女は一匹の虫を飼っている。鳥篭に佇む、小さな白き虫を。
名を、「リヴァ」という。
古グラナリア語における『蝶』の意味を持つその虫は、飼い主の呼び名そのままに蝶であった。
白き蝶。透けるような純白の翅翼を広げる優美な蝶。
それが紀元だ。
紀に至る事になる美の女神の原点は、一匹の蝶だった。
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「歌はいいものだヨ。人が用いる最も普遍的な文化である音と、最も汎用的な文明である言葉の融合。ウン、まさに人間の叡智の集大成と言っても過言ではないネ」
自分の横に座るみすぼらしい少女を横目で見つつ、カタルマリーナは『口を開いて』言葉を返した。
「私もそう思うわ。 けれど、私は人じゃない」
「それでも歌は尊いよ」
「でも、」
反論しようとした口を、細い指で塞がれた。少女は片目を瞑って、
「でもは無シ。理屈はただの虚飾ダヨ。大事なのは衝動と欲求」
少女の諫言は的を射ているようでいて微妙にずれたものだったのだが、不思議にカタルマリーナの胸に温かく浸透していった。
「そうね。 そういう風に考えるのも、いいかもね・・・」
カタルマリーナは、しばし逡巡して。
そっと、息を震わせた。

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歌が好きだった。
誰かに聞いてもらいたくて、色んな所で歌った。
聞いてくれた人たちは、皆勝手に死んでしまった。
私は歌っただけなのに。
皆がそうするように。楽しげに、朗らかに、笑いあうその響きが、羨ましかっただけなのに。

どうして皆は、私の歌を嫌いになるの?

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